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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)403号 決定

抗告人

大進建設株式会社

右代表者

守屋新一

右代理人

土橋修丈

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載のとおりである。

本件記録によれば、抗告人は債権者株式会社ワンマン・債務者佐々木光重間の横須賀簡易裁判所昭和五七年(ロ)第二七〇号損害賠償請求督促事件につき同裁判所が昭和五七年四月七日になした支払命令について、補助参加人として同年四月二四日付異議申立書を提出し、これに対し原審は同年五月一〇日付で「申立人の異議申立を却下する。」との決定をなしたものである。

そこで検討するに、訴訟係属とは事件が狭義の訴訟、即ち判決手続により処理される状態をいうのであるから、これ以外の手続が行われていても訴訟係属は生じない。但し督促手続において債務者に支払命令が送達された後に同人の異議申立により当然に判決手続に移行するのであるが、この場合債務者の異議申立がなされた段階において訴訟係属が生じるものと解すべきである。ところで本件記録によれば、前記支払命令正本は昭和五七年四月九日右債務者(佐々木光重)に送達されたが、同債務者からの異議の申立はなされていないことが認められる。されば、前記債権者債務者(原被告)間の訴訟係属前に抗告人は補助参加人となるものではなく、同人の異議申立は不適法というべきである。なお、判決で異議申立を却下すべきとの抗告理由が失当であることは明らかであることを付言する。

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(藤原康志 片岡安夫 小林克巳)

[抗告状]

抗告人は、債権者株式会社ワンマン、債務者佐々木光重間の横須賀簡易裁判所昭和五七年(ロ)第二七〇号損害賠償請求督促事件につき、昭和五七年四月二四日同裁判所がなした支払命令について債務者のために補助参加の申立てをなすとともに右支払命令に異議を申立てたところ、本月一三日横浜地方裁判所横須賀支部は右異議申立てを不適法として却下する旨の決定をなし、抗告人は本月一七日該決定の告知をうけたが、不服であるから、ここに即時抗告をいたします。

原決定の表示

申立人の異議申立てを却下する。

抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、抗告人の本件異議申立てを認容する。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定は、本件支払命令正本は昭和五七年四月九日債務者に送達されたが、債務者から異議の申立てがなされていないので債権者債務者間において訴訟の係属がない、それで抗告人は補助参加ができない、というのである。

しかしながら本件は原決定のいうが如くはたして訴訟係属がないと言えるのであろうか。訴訟係属発生時期については、学説がわかれるところであるが、かりに被告への訴状の送達によつて三面的な訴訟法律関係が成立した時をもつて訴訟が係属する、とする説(注一)を採つたとしても、督促手続についての訴訟係属の時期は、異議の申立てがあれば当然判決手続に移行する状態となるのであるから、債務者に支払命令が送達された時をもつて、訴訟係属と同視しても差し支えない、と理解している(注二)。

すなわち本件は、すでに支払命令正本が債務者に送達されているのであるから、訴訟が係属していると言うべきであつて、この理を認めない原決定は不適法である。

二、抗告人は、昭和五七年四月二四日本件債務者を補助するために補助参加の申立てをなすと共に、本件異議の申立てをなしたのであるが、学説(注三)によれば、補助参加ができる訴訟とは、判決手続および訴訟と同一の効力を生ずる督促手続であること、および補助参加人は、債務者に対する支払命令の送達後、債務者のために補助参加の申出をなした上、またはその申出と共に異議の申立てをして訴訟に移行させることもそれぞれ認めている。この理は、訴訟係属について三面的訴訟法律関係成立時説を採る学説(注四)についても同様の結論にみちびかれているのである。この理を認めない原決定は、不適法というべきである。

三、なお本件は、横須賀簡易裁判所が本件異議の申立てを適法なものとして取り扱い訴訟手続に移行し原審に係属したのであるから、原審が本件異議を不適法であるとするならば、判決で却下しなければならないと思料するが、この点においても原決定は、不適法である。

四、よつて抗告人は、抗告の趣旨どおりまたは「原決定を取り消す」との裁判を求めるため本抗告に及ぶものである。

(注一) 三ヶ月章著 弘文堂刊 法律学講座双書民事訴訟法初版三七九頁

小山昇著 青林書院新社 民事訴訟法一九〇頁

兼子一著 酒井書店 新修民事訴訟法体系増訂版一七三頁

(注二) 前掲兼子著 一七三頁

三ヶ月章著 有斐閣刊 法律学全集民事訴訟法一一七頁

(注三) 菊井維大、村松俊夫著 日本評論社 全訂民事訴訟法Ⅰ三六〇頁以下

(注四) 兼子一著 弘文堂 条解民事訴訟法上一六三頁

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